【目次】
キャッシュフロー(C/F)とは、事業におけるお金の流れを示す指標
キャッシュフロー計算書は、会計期間におけるキャッシュの増減を記した決算書類
キャッシュフローを把握するメリット
キャッシュフロー計算書の読み方
キャッシュフロー計算書の作成方法
キャッシュフローのまとめ
監修者プロフィール
田中 卓也(たなか たくや)
税理士、CFP®
中央大学商学部で学んだ後、東京都内の税理士事務所での勤務を経て、田中卓也税理士事務所を開業。記帳代行、税務相談、税務申告をはじめ、事業計画の作成やサポート等の経営相談、キャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・事業継承対策など、経営者や個人事業主のサポートを幅広く行う。そのほか、一生活者目線で、講師や執筆活動、講演活動にも取り組んでいる。
田中卓也税理士事務所(外部サイトに移動します)
キャッシュフロー(C/F)とは、事業におけるお金の流れを示す指標
キャッシュフローは、企業が事業を行ううえで発生する「お金(キャッシュ)」の「流れ(フロー)」を表す指標です。英語表記の「Cash Flow」から「C/F」と略されることもあります。
事業では、売上や売掛金、仕入れ費用、人件費などさまざまなお金の出入りが発生します。このうち会社に入ってくるお金が「キャッシュインフロー」、出ていくお金が「キャッシュアウトフロー」で、この2つのお金の流れを、会計期間内において可視化したものがキャッシュフローです。キャッシュフローを確認することにより、企業は自社の財務状況を客観的に把握することができます。
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キャッシュフロー計算書は、会計期間におけるキャッシュの増減を記した決算書類
キャッシュフロー計算書は、企業の一定期間における資金の増減を示した決算書類です。後述する貸借対照表や損益計算書と並んで重要な決算書類のひとつとされています。ここでは、キャッシュフロー計算書と貸借対照表、損益計算書の違いについてそれぞれ解説します。
関連記事:キャッシュフロー計算書を作成する上で重要な目的や意味を解説
キャッシュフロー計算書と貸借対照表(B/S)の違い
先に述べたとおり、キャッシュフロー計算書は一定期間内のお金の動きを示すのに対して、貸借対照表(Balance Sheet、B/S)は決算日時点の財政状態を表すという点が違いです。
貸借対照表の目的は、会社の資産と負債を比較し、決算日時点の会社の財務状況を明らかにすることです。そのため、貸借対照表からわかるのはあくまで決算日時点で会社が保有する資産と負債の残高であり、そこに至るまでの経緯を把握することはできません。
一方、キャッシュフロー計算書では、会計年度中にお金が増えた理由と減った理由を可視化でき、貸借対照表ではわからない項目ごとのキャッシュの出入りを理解するのに役立ちます。
関連記事:貸借対照表(バランスシート)とは?読み方や見方をわかりやすく解説
キャッシュフロー計算書と損益計算書(P/L)の違い
損益計算書(Profit and Loss Statement、P/L)は、実際には入出金が発生していない売掛金を収益として、買掛金を費用として認識し、計上する一方、キャッシュフロー計算書では掛取引は反映されず、入出金が行われたものだけを計上する点が違いです。
損益計算書は、収益、費用、利益の3つの要素から成り、ある一会計期間における会社の損益を示します。収益から費用を差し引いた利益を見ることで、企業の収益性を判断することが可能です。また、本業と、本業以外のどちらで成果が出ているかを把握するのにも役立ちます。
関連記事:損益計算書(P/L)とは?項目の見方や見るべきポイントを解説
キャッシュフローを把握するメリット
企業経営においてキャッシュフローを把握することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、キャッシュフローを把握するメリットについて、3つ紹介します。
経営の中長期的な安定化が叶う
経営者がキャッシュフローを把握するメリットのひとつは、経営の中長期的な安定化が叶うことです。企業間の取引は、先に商品やサービスを提供して代金を後払いしてもらう掛け払いが慣例になっています。しかし、このような信用を担保とした取引では、代金が未回収になったり、企業ごとの支払いサイトの違いから入金のタイミングがずれたりして資金がショートするリスクがあります。資金がショートすると、帳簿上は黒字であっても倒産してしまう、いわゆる黒字倒産につながりかねません。キャッシュフローを把握することで、黒字倒産の兆候を察知し、経営リスクを低減することが可能です。
資金調達がしやすくなる
金融機関やベンチャーキャピタルからの資金調達がしやすくなるのも、キャッシュフローを把握するメリットです。新規事業へのチャレンジや既存事業の拡大にあたって融資を受ける場合、金融機関やベンチャーキャピタルは必ずキャッシュフロー計算書を見て資金繰りの状態を確認します。キャッシュフローが健全であると判断されれば、希望通りに資金調達できる可能性が高まります。そのため、キャッシュフローの状態を常に把握し、日頃から経営の健全性を保てるようにしておくことが大切です。
関連記事:ベンチャーキャピタル(VC)とは?種類、メリット・デメリットを解説
経営判断の選択肢が増える
経営判断の選択肢が増えるのも、キャッシュフローを把握するメリットのひとつです。キャッシュフローを把握することで、新規事業や設備などへの投資にも適切に資金を配分できるなど、経営判断の選択肢が広がります。また、前述のように、キャッシュフローの状態を把握し、経営の健全性を保つことで資金調達しやすくなるため、企業の成長機会を逃さずに投資を行えるでしょう。
キャッシュフロー計算書の読み方
キャッシュフロー計算書では、「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動におけるキャッシュフロー」という3つのキャッシュフローを用いて、会社のお金の動きとその要因を詳しく示します。ここからは、それぞれのキャッシュフローの説明と併せて、キャッシュフロー計算書の読み方について解説します。
営業活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローは、企業の本業で発生する現金の流れです。製品の原材料仕入れに伴う費用、営業活動で得た収入、従業員への給与の支払いなどが該当します。営業活動によるキャッシュフローがプラスの場合、本業の収入のみで本業の支出をカバーできており、本業が順調であることがわかります。
一方、営業活動によるキャッシュフローがマイナスの場合は、本業で利益が出ていない、あるいは本業で流入するキャッシュ以上にキャッシュが流出している状態です。この状態が続くと、事業を行うための手元資金がショートするリスクがあるため、注意が必要です。
投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローは、設備投資や資産運用といった投資活動における現金の流れです。設備投資などによる支出よりも、固定資産や有価証券の売却などで得られる収入が多いと、投資活動によるキャッシュフローはプラスになります。一方、設備投資を積極的に行っている場合には、投資活動によるキャッシュフローがマイナスになることもあります。しかし、このように設備投資による一時的なマイナスは、企業成長につながる投資を積極的に行っていると判断することが可能です。そのため、投資活動によるキャッシュフローがマイナスになった場合には、設備投資が企業の活性化等につながっているか、という視点で見ることも大事です。
財務活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフローは、金融機関からの借り入れや株式の発行、配当金の支払いなど、企業が実施した資金調達や借入返済にまつわる現金の流れです。財務活動によるキャッシュフローがプラスなら、事業拡大に向けた資金調達が順調であることを表していますが、借入金や融資残高が膨らんでいるという可能性も含まれていますので注意が必要です。一方、財務活動によるキャッシュフローがマイナスであっても、営業キャッシュフローがプラスで金融機関への返済も順調に進んでいて、借入金の残高が減少している場合などはあまり気にする必要はないでしょう。
営業活動によるキャッシュフローのプラス分より、財務活動によるキャッシュフローのマイナス分が大きい場合には、「本業での儲け以上の借入返済がある」という状況になっているケースも少なくありません。そうなる前に、「借入返済は本業での儲け以下に抑える」という視点でキャッシュフロー計算書を活用することも重要です。
キャッシュフロー計算書の作成方法
キャッシュフロー計算書の一部である営業活動によるキャッシュフローは、直接法と間接法の2通りの方法で算出できます。直接法と間接法の違いは、営業活動による現金の受払いを直接記載するか、間接的に計算するかです。
IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)が作成した資料「財務諸表の表示に関する予備的見解(外部サイトへ移動します)」の中にも記載があるとおり、IFRS(国際会計基準)および米国会計基準は共に、企業がキャッシュフロー計算書において、営業活動に関する現金の受払いの主要な項目について表示すること(営業キャッシュフローの表示方法としての直接法)を奨励していますが、企業が間接法を用いて営業キャッシュフローの合計を表示することも容認しています。そのため、日本では作成のしやすさから間接法で算出する企業が多くを占めています。ここでは、直接法と間接法の作成方法についてそれぞれ解説します。
なお、キャッシュフロー計算書には、無料で利用できるテンプレートもあります。日本公認会計士協会が提供する「キャッシュ・フロー計算書作成シート(外部サイトへ移動します)」や、中小企業庁の「中小企業の会計ツール集(外部サイトへ移動します)」内にあるキャッシュフロー計算書の簡易作成ツールなどを利用することが可能です。
直接法
直接法は、営業活動によって生じる現金の出入りについて、収入項目や支出項目ごとに総額で計算する方法です。営業活動による収入(現金売上、売掛金の回収)、仕入れに伴う支出(現金仕入れ、買掛金の支払い)、人件費による支出といった項目を直接的に加算、減算し、各項目のキャッシュフローの増減を示します。
本業の収支を内訳まで詳細に把握できるのがメリットですが、主要な取引ごとに作成しなければならず、手間がかかることに注意が必要でしょう。
直接法によるキャッシュフロー計算書の主な作成手順は以下の通りです。
<直接法によるキャッシュフロー計算書の主な作成手順>
1. 現金収入や売掛金回収などの営業活動による収入を集計して記載する
2. 現金による仕入れの支出を集計して記載する
3. 給料や賞与など人件費の支出を集計して記載する
4.当期分のそのほかの営業支出を集計して記載する
なお、現金の出入りは収入項目や支出項目に着目するため、減価償却費や貸倒引当金といった現金の出入りが関係ない項目は、除外することがポイントです。
間接法
間接法は、損益計算書の数字をもとに営業活動によるキャッシュフローを算出する方法です。具体的には、損益計算書に記載されている「税引前当期純利益」から、営業活動に伴うキャッシュの動きを加算、減算します。作成に手間がかからない反面、主要な取引ごとに計算をしないため、キャッシュの流れの詳細をつかみにくいのが難点だといえるでしょう。
間接法によるキャッシュフロー計算書の主な作成手順は以下の通りです。
<間接法によるキャッシュフロー計算書の主な作成手順>
1. 税引前当期純利益の額をキャッシュフロー計算書の「税金等調整前当期純利益」の項目に転記する
2. 減価償却費や貸倒引当金など非資金損益項目を加算するなどして調整する
3. 営業外損益と特別損益が税引前当期純利益に含まれている場合は差し引く
4. 営業活動に関するキャッシュ項目を見極めて加算、減算するなどして調整する
間接法の場合、直接法とは逆で、税引前当期純利益の算定には、減価償却費や貸倒引当金といった現金の出入りが関係ない項目についても考慮されます。現金の出入りが関係ない項目を加算することにより、現金の出入りがある項目だけを残すのがポイントです。
キャッシュフローのまとめ
以下に、キャッシュフローの主な要点をまとめます。
・キャッシュフロー(C/F)とは、企業のお金の流れを示し、財務状況を把握するための指標
・企業の会計期間におけるキャッシュの増減は、キャッシュフロー計算書で計算される
・キャッシュフローを把握することは、経営の安定化や資金調達の円滑化、適切な経営判断につながる
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