監修者プロフィール
赤羽 応介(あかはね・おうすけ)
公認会計士
公認会計士として10年以上にわたりコンサルティング業務(IFRS導入支援、BPR支援、J-SOX対応支援、システム導入支援等)、監査業務といった実務に従事。その他、専門誌への寄稿やセミナー講師等を経験し、ブログ「公認会計士によるわかりやすい解説シリーズ(外部サイトに移動します)」にて会計、税金、投資、ITに関する情報を発信している。
【目次】
資本金とは会社を運営するための元手となる資金
資本金の役割
平均的な資本金額
資本金の決め方と決めるうえでの注意点
資本金額によって変わる税金や手数料の代表例
資本金を入出金、増額する際のルール
資本金のまとめ
資本金とは会社を運営するための元手となる資金
資本金とは、会社経営の元手となる資金です。出資者からの払い込みや経営者の自己資金によって形成され、会社の設立や運営に使用されます。「自己資本」とも呼ばれ、会社の体力ともいわれています。
一方、銀行からの借入金や買掛金、未払金などの外部から調達したもので、返済義務がある資金を「他人資本」と呼びます。契約に従って元本の返済と利子の支払いが生じます。
資本金の役割
「自己資本」にあたる資本金には、大きく2つの役割があります。
1つ目は、会社を経営していくための軍資金としての役割です。例えば、新しい事業を始める場合、設備投資や人件費、広告宣伝費など多額の初期投資が必要になるケースが多いでしょう。このとき、豊富な自己資本があれば新規事業の立ち上げに必要な資金を内部留保資金から充当することができます。外部からの借入に頼らずに済むため、金利負担がからず、返済の心配をすることなく事業に専念できます。
2つ目の役割は、対外的な信用の取得です。資本金額は「銀行からの借入限度額の設定」や「取引を行う際の与信調査」を行う際などの判断材料となるので、資本金額が高い方が、取引先、金融機関、顧客などの関係者からの信頼性向上につながりやすいといえるでしょう。
平均的な資本金額
日本の企業の資本金階級がわかる、総務省・経済産業省が5年に1度調査を行う、経済センサス‐活動調査を参考にしましょう。「経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 企業等に関する集計(外部サイトに移動します)」によると、日本にある企業の9割以上が資本金額を3000万円未満で設定していることがわかります。
平均的な資本金額の目安ともいえる、最も多くの企業が設定している資本金階級は、全体の33.2%を占める300万円~500万円未満でした。次いで多いのが31.9%を占める1,000万円〜3,000万円未満で、14.5%が500万円~1,000万円未満、11.5%が300万円未満と続きます。資本金を3000万円以上に設定している企業は全体の8.9%のみという結果でした。
資本金の決め方と決めるうえでの注意点
平均的な資本金額の目安を参考に、実際にどのように資本金額を設定すればいいのかを解説していきます。株式会社においては、会社法32条で、設立時に資本金を定める必要があると決められています。2006年5月に新会社法が施行されてからは、金額の下限はなく1円以上の資本金があれば会社設立が可能となりました。合同会社においては、会社法578条にて社員が出資を行うこととされており、社員による払込金額が資本金として取り扱われます。
資本金額は、「運転資金」や「許認可・税金との関係」といった観点から決めていくことが一般的です。初期投資額に加えて3ヶ月から半年分の運転資金を見込んだ金額を設定するのがひとつの目安といわれています。
事業によっては事業を開始してしばらくは、売上が立たず収入が得られない期間も想定されます。法律上は1円から会社を設立できますが、実際には早期に資金繰りが悪化し事業の継続が難しくなってしまう事態を招かないためにも、収入がなくても運転資金を賄える程度の資本金が必要です。事業の規模、将来の事業計画に基づき、予想される収入や経費、投資額、運転資金などを見積るようにしましょう。
資本金額を決める際、注意しておく点があります。各行政機関における許認可の条件や活用を考えている制度の条件、税金や手数料の負担額です。許認可の要件に資本金額が定められているケースや、一定の資本金額を超える場合に、税金や助成金の優遇措置が受けられなくなるといったケースもあります。銀行から融資が受けやすくなるなど、社会的な信頼という観点からは、資本金が大きいほど望ましいですが、各種制度との関係を踏まえ、自社に最適な資本金額を決めていくことが重要でしょう。
各行政機関における許認可の条件、補助金・助成金の受給要件、税金・手数料の負担額に関してそれぞれ説明します。
各行政機関における許認可の条件
事業によっては、許認可の基準に資本金額が含まれることがあります。この場合、要件を満たさなければ事業を行えないので、必ず自社の事業に許認可が必要かどうかを確認しましょう。もし許認可が必要な場合はその要件を満たす資本金を用意してください。許認可の要件に資本金が含まれる業種例は以下のとおりです。
業種 |
設立時に必要な資本金額 |
有料職業紹介事業 |
1事業所につき500万円 |
一般建設業 |
自己資本500万円以上、又は500万円以上の資金調達能力 |
一般労働者派遣事業 |
2,000万円 |
旅行業 |
第1種3,000万円、第2種700万円、第3種300万円、地域限定100万円 |
補助金・助成金の受給要件
行政が取り扱う補助金・助成金の受給要件のひとつに、資本金要件が定められている場合があります。補助金・助成金の活用を考えている場合は、資本金額を決定する際のひとつの基準となるので、事前に資本金要件について確認しておきましょう。
たとえば、中小企業者が加入できる退職金制度であり、掛金の一部を国が助成する「中小企業退職金共済制度(外部サイトに移動します)」では、制度に加入できる企業の要件として業種ごとに資本金額と従業員数が定められています。助成金を受けるためには、資本金額を下記の表に基づく金額以下にする必要があります。
業種 |
資本金又は出資額 |
常時雇用する労働者 |
小売業(飲食店を含む) |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
税金・定款の認証手数料の負担額
資本金額によって、税金の優遇措置や、定款の認証手数料の金額が変わる場合があります。資本金額を決める際には、税金や定款の認証手数料の負担額も考慮しましょう。
資本金額によって変わる税金や手数料の代表例
資本金額によって税金や手数料の負担額が変動するケースの代表的な例として、消費税、法人税、法人住民税、法人事業税、登録免許税、定款の認定手数料と、資本金額との関係について解説します。
消費税
基準期間(=前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の場合は、消費税の納税免除を受けることができます。設立1期目と2期目は基準期間がありませんので、原則として納税義務は免除となります。
しかし、資本金が1,000万円以上の場合はこの特例の対象外で、設立初年度から納税が課されます。消費税の優遇措置を受けるという観点からは、資本金を1,000万円未満に設定する必要があります。ただし、注意が必要です。2023年10月に施行されたインボイス制度において、登録事業者となっている場合には、消費税の免税優遇が受けられません。
法人税
資本金が1億円以下の「中小企業」の場合、法人税率が一部軽減されます。
具体的には、大企業の法人税率が一律23.2%であるのに対し、「中小企業」の場合、年800万円以下の所得部分は15%、800万円超の部分は23.2%が適用され、800万円以下の所得部分について法人税の負担が軽減されています。詳細は国税庁の「法人税の税率(外部サイトに移動します)」で確認できます。
関連記事:法人税とは?法人にかかる税金の種類や税率、計算方法について解説
法人住民税
法人住民税は、地域社会の費用について、その構成員である法人にも、個人と同様幅広く負担を求めるものです。道府県民税と市町村民税があり、事務所等を有する法人に、その事務所等が所在する都道府県及び市町村がそれぞれ課税するものです。資本金等の額、従業者数に応じて定額が課される均等割、法人税額に応じて課される法人税割があります。(出典:総務省ホームページ ※外部サイトに移動します)
注意点として、法人税割は納税する法人税額×法人税率で計算されます。法人税率は国が定める標準税率に加え、地方自治体が定めた超過税率で構成されています。該当する地方自治体が定めた超過税率は、必ず該当の地方自治体のホームページなどで確認しましょう。東京都の場合、資本金額が1億円以下、かつ法人税額が年1,000万円以下の法人には超過税率がかかりません。均等割も資本金額と従業員数をもとに、各地方自治体により金額が定められています。必ず該当の地方自治体のホームページなどで確認しましょう。
東京23区の場合は、以下となります。(2024年3月現在)
資本金額 |
従業員数 |
均等割額 |
1,000万円以下 |
50人以下 |
7万円 |
|
50人超 |
14万円 |
1,000万円超~1億円以下 |
50人以下 |
18万円 |
|
50人超 |
20万円 |
1億円超~10億円以下 |
50人以下 |
29万円 |
|
50人超 |
53万円 |
10億円超~50億円以下 |
50人以下 |
95万円 |
|
50人超 |
229万円 |
50億円超 |
50人以下 |
121万円 |
|
50人超 |
380万円 |
法人事業税
法人事業税は、法人が行う事業そのものに課される税であり、法人がその事業活動を行うに当たって地方団体の各種の行政サービスの提供を受けることから、これに必要な経費を分担すべきであるという考え方に基づき課税されるものです。事務所等を有する法人に、その事務所等が所在する都道府県が課税します。
資本金1億円超の普通法人に対しては、付加価値額に応じた付加価値割、資本金等の額に応じた資本割、所得に応じた所得割が課され、資本金1億円以下の普通法人等に対しては、所得割のみが課されます。このほか、電気供給業(小売電気事業等及び発電事業等を除く)、ガス供給業、保険業を営む法人に対しては、収入金額に応じた収入割が課されます。(出典:総務省ホームページ ※外部サイトに移動します)
登録免許税
登録免許税とは、法人登記や不動産登記など登記を受ける際にかかる税金です。会社設立時にかかる登録免許税は、会社形態と資本金額によって異なり、以下のとおりです。
会社形態 |
税率 |
最低課税金額 |
株式会社 |
資本金の0.7% |
15万円 |
合同会社 |
資本金の0.7% |
7万円 |
登録免許税を軽減するという観点からは、資本金額を小さくしておくことが望ましいですが、最低課税金額が必要となる点に注意が必要です。詳細は、国税庁の「登録免許税の税額表(外部サイトに移動します)」で確認できます。
定款の認証手数料
定款とは、法人の組織活動の根本規則です。会社法で定められており、株式会社や合同会社など、会社の種類によって記載すべき内容が異なりますが、会社設立時に作成し、公証人の認証を受ける必要があります。認証を受けるためにかかる認証手数料が、以下の通り資本金額により異なります。(2024年3月現在)
資本金額 |
認証手数料の金額 |
100万円未満 |
3万円 |
100万円以上300万円未満 |
4万円 |
300万円以上 |
5万円 |
定款認証の詳細や公証役場については、日本公証人連合会のウェブサイト(外部サイトに移動します)で確認できます。
資本金を入出金、増額する際のルール
最後に、資本金を入出金する際の具体的な手続きや資本金額の増資をする際のルールについて解説します。
資本金の入金
資本金の払込日は定款が認証された日以降でならなくてはいけませんので、定款が認証された日以降に、株式会社の場合は発起人が用意した自身の個人口座に、合同会社の場合は代表社員が用意した自身の口座に資本金を振り込みます。なお、法人口座は法人登記後でないと開設できないため、この時点では個人口座で問題なく、新設する必要もありません。
なお、法人登記を行う際、法務局に登記申請書と必要書類の提出が必須です。出資金の払込証明書は必要書類の1つですので、資本金が入金された口座明細と通帳表紙のコピーなどの添付が必要となります。
法人登記が完了したら法人口座を開設できるので、開設できるまでは個人口座で資本金をそのまま保管し、法人口座が開設後に個人口座から資本金を移動させましょう。
資本金の出金
資本金は会社の資金であり、代表者が単独で経営する場合でも個人的な支出には使うことはできせんが、 用途については限定されていないため、特別な手続きは必要なく、いつでも引き出すことができます。
資本金額の増減額
資本金額を増やすことも減らすことも可能で、増やすことを「増資」、減らすことを「減資」といいます。会社の登記事項に変更が生じた場合には、2週間以内に変更登記を申請しなければならないと会社法で定められています。 増資を行った場合には出資金の払い込みが完了してから2週間以内、減資の場合には資本減少の効力が発生した日から2週間以内になります。
合同会社においては新たに出資があったなど増資をする場合でも登記が不要なケースもありますが、増資を行った場合には、法務局で登記事項の変更が必要で、増額の0.7%(3万円に満たないときは、申請件数1件につき3万円)の登録免許税がかかります。減資の場合は申請件数1件につき3万円の納付が必要となります。申請に必要な株式会社変更登記申請書のフォーマット(外部サイトに移動します)は法務局のホームページからダウンロードできます。
資本金のまとめ
・資本金とは、会社経営の元手となる資金(自己資本)
・資本金額は、行政機関における許認可の条件、活用を考えている制度の条件、税金や手数料の負担額を考慮しながら最適な金額を決める必要がある
・資本金を払い込む際、および増資、減資の際には手続きが必要
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