監修者プロフィール
末永 寛(すえなが・ひろし)
税理士
一般企業における経理事務を約25年経験したのち、大手税理士法人勤務を経て税理士事務所開業。フリーランス・中小企業専門の税理士として、税務業務のみならず、将来の企業運営も含めた経営サポート業務を提供。また、近年の電子帳簿保存法やインボイス制度への対応も含めたITツールの導入にも積極的に導入サポートを行っている。
スエナガ会計事務所(外部サイトに移動します)
【目次】
事業計画書とは自社の事業方針を社内外に示す書類
事業計画書を作成する目的
事業計画書の各項目の書き方
事業計画書を書く際のチェックポイント
事業計画書のテンプレート
事業計画書の書き方のまとめ
事業計画書とは自社の事業方針を社内外に示す書類
事業計画書とは、社内外へ自社の利益見込みや事業方針などを説明する際に用いる書類です。外部からの支援を請う際などに役立ち、主に融資や出資の場面で求められることが多くあります。
事業計画書の提出に法的義務はないものの、事業の内容を言語化することで目標や課題が明確となるため、事業を成功へ導く重要なツールとしても活用されています。
事業計画書を作成する目的
事業計画書を作成する目的は、社内外に向けて事業の実現可能性を具体的に示すことにあります。融資や出資などにおいて外部からの協力を得たい際には特に、記載内容が妥当で実現可能性から乖離しておらず、信頼できるものになっているかが重要になります。
事業計画書は融資や出資を得るための書類ではなく、事業の実現可能性を具体的に示す書類だということを常に意識し、事業計画書の作成自体が目的になってしまうことがないよう、注意しましょう。
事業計画書の各項目の書き方
事業計画書には特に決まったフォーマットは定められておらず、国指定のテンプレートなどもありません。ここでは一般的に記載される10項目について、書き方を具体的に解説します。
ただし、金融機関によっては融資の際にフォーマットを指定される場合があるので注意が必要です。事前にホームページなどで確認するようにしましょう。
企業概要
企業概要の項目には、主に商号(会社名)、所在地、連絡先、代表者や役員、株主構成、主要取引先、主力事業、従業員数などの基本情報を記載します。
創業前や創成期であれば、代表者の経歴や事業スケジュールも記載するようにしましょう。創業前や創業初期の企業には実績がないため、出資元や融資元は信頼性を判断する材料を持っていません。そのような状況下では、代表者の経歴や事業スケジュールが重要な判断材料となるので、事業者自身や代表者の経歴、事業スケジュールなどを明確に記載することが重要です。
事業概要
事業概要の項目には、自社のビジネスモデルを記載します。「どの市場で」「誰に」「何を提供するのか」の観点から、メインターゲットやサービス提供までのプロセス、利益を生み出す仕組みを明確に伝えることを意識して書き記しましょう。
事業コンセプト
事業コンセプトの項目には、「なぜこの事業をやりたいのか」「この事業で何を達成したいのか」を簡潔に記載します。事業が成功する社会的な背景を具体的に記載するようにしましょう。
従業員の状況
従業員の状況の項目には、記載時の従業員数、今後必要となる従業員数、雇用検討中の従業員数などを記載します。
「従業員数」には取締役や監査役など役員は含まないので注意が必要です。また、役員の家族が業務を行っている場合は「従業員数○人(うち家族△人)」と分けて記載します。家族によって企業の意思決定や経営に影響が及ぶ可能性を示し、透明性と公平性の確保するためです。また、一部の法域では、役員の家族が従業員として働いている場合、企業が従業員数を公表する際に家族の数を明示することが義務付けられることもあるので、分けて記載することが推奨されています。
今後の採用計画も含め、記載内容が妥当で実現可能性から乖離しないように注意し記載しましょう。
市場分析
市場分析の項目には、競合他社やマーケットの規模などの状況を分析したものを記載します。
市場を分析することで競合の強みや弱みも把握でき、自社の独自性や強みに気づきやすくなるので、次の項目でもある、自社分析にも役立つでしょう。
自社分析
自社分析の項目には、自社の強みと弱みなどを記載します。
自社分析の際に高頻度で用いられるフレームワークに「SWOT分析」があります。「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の頭文字をとったもので、このフレームワークにより自社の特徴が割り出せるので、ぜひ活用しましょう。
「強み」は技術やスキル、ノウハウ、資格、組織力、企業風土などの観点から分析します。また、「弱み」は列挙するだけではなく、対策も併記することで、改善に向けて講じるべき施策を明らかにできます。これらを記載することで、客観的に自社を分析できるほか、出資元や融資元の判断基準を増やすことができます。
関連記事:【テンプレあり】「SWOT分析」成功法!初心者でもビジネス戦略が高まるやり方や具体例を図で説明
サービスや商材の概要
サービスや商材の概要の項目では、自社のサービスや商材がどのようなものかを記載します。
具体的には、特定の機能や性能、使用方法、利用シーンなどを詳細に説明します。また、競合他社との比較などから顧客が顕在的に認識できる価値だけでなく、潜在的な価値、付随するサービスなども明確化しましょう。
企業の提供するサービスや商材の価値を正しく理解できれば、企業への信頼感向上につながる可能性があります。
戦略やビジネスモデル
戦略やビジネスモデルの項目では、販売ターゲットや販売戦略、セールスポイントを記載し、利益をあげていく仕組みを具体的に明示します。
具体化しやすくなるので、ペルソナを設定して顧客はどのようなアプローチで購買まで至るかのプロセスを思い描き、その中でどのようにマネタイズするのかもあわせて検討するようにしましょう。
体制計画
体制計画の項目では、今後どのような人員体制で進めていく想定なのかを記載します。
体制計画については、組織図を作成しましょう。組織図を作成することで指揮命令系統の明確化と可視化が可能になり、より綿密な体制計画を練りやすくなります。具体的には、経営の意思決定機関、役員、部、課、支店・営業所等、会社に存在する部署など、もれのないように記載しましょう。
財務計画
財務計画の項目には、今後の「売り上げ」や「利益」を年次や四半期ごとの期間で予測して記載します。
出資元や融資元は、利益の金額が十分計上されるかなど実現可能性を加味して、出資や融資の判断を行うので、達成可能な売上計画や利益計画を策定することが重要です。
売り上げは、商品やサービスの単位で見込み客数等を参考に、実現可能な計画を予測して算出しましょう。
利益は、資金調達において最も重視される項目になります。「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引後利益」などのセグメントを把握したうえで算出しましょう。
また、資金調達計画も重要な財務計画の一つです。どのタイミングで融資や出資を受けるかの見通しを立てておき、資金収支表と連携させることで、出資元や融資元にとっても、より良い判断材料になるでしょう。
事業計画書を書く際のチェックポイント
資金調達時にも役立つように事業計画書の書く際に気をつけるポイントを、5つ紹介します。
チェックポイント1:内容は具体的か
自社のビジネスアイデアについて、初めて知る人でも理解できるものになっていることが重要です。抽象的な表現や曖昧な言い回しがないか、商品およびサービス内容の説明が具体的かといった観点から推敲し、確認しましょう。
また、売り上げや利益等、数値で表すものは、根拠をもって算出されていることもわかるようにしましょう。売り上げや利益等の数値だけでなく、算出に必要となる「販売数」や「商品単価」等の数値の根拠も示すことで、事業計画書の信頼性が向上します。
売り上げや利益などの計算方法は政策金融機関である日本政策金融公庫「売上高の計算方法について」(外部サイトに移動します)を参照してください。実現可能な数値を算出し、より具体的な事業計画書を作成しましょう。
チェックポイント2:整合性がとれているか
事業計画書が整合性のとれたものになっているかも重要です。記載した内容に相反する箇所がないかを精査します。分析についても適切な因果関係、相関関係のもとで考察できているか、項目に応じて異なる見解を示していないかなどを確認します。
首尾一貫した内容であるかを確認したうえでわかりにくい部分があれば、グラフや図解を挿入してわかりやすくまとめるようにしましょう。
チェックポイント3:競合分析は十分か
資金調達をする際、十分な競合分析がされていることを示すことは重要なポイントとなります。
自社分析は豊富でも競合分析が不十分だと、自社の商品やサービスが市場において優位性があるのか否かの判断が難しくなるため、出資元や融資元からの信用を得るのが難しくなります。入念な競合分析と市場調査をもとにしながら自社の強みを示せれば、出資元や融資元に対しての説得力が増します。
チェックポイント4:模倣困難か
サービスや商材に競争優位性があり、模倣困難な強みがあるか、模倣させない対策を有しているかなどをアピールすることが重要です。具体的には「品質の高さ」「技術的な強み」「知的財産権」などを記載しましょう。模倣困難な強みを明確化することで、他社との差別化ポイントを明示でき、出資元や融資元の信頼獲得につながります。
チェックポイント5:内容が専門的すぎないか
事業計画書は、業界に詳しくない人も理解できる文章を心がけましょう。専門的な知識がなくても理解できるように前提や背景を追加することが大切です。
第三者の視点を取り入れて、ブラッシュアップしていくといいでしょう。
事業計画書のテンプレート
日本政策金融公庫のウェブサイト(外部サイトに移動します)には、創業時をはじめとするさまざまな事業局面に応じた事業計画書のテンプレートが掲載されています。汎用性が高く、具体例の記載があるなど利便性にも優れているので、自社の目的に応じて活用しましょう。
事業計画書の書き方のまとめ
事業計画書の書き方について、以下に要点をまとめます。
・事業計画書は、自社の事業方針を社内外に示すもの
・事業計画書を作成する目的は、「事業の見通しの明確化」「実現可能性の具体化」
・事業計画書には、企業や事業の概要、市場分析や自社の強み、戦略やビジネスモデル、財務計画を記載
・事業計画書作成のポイントは、「内容の具体性」「内容の整合性」「競合分析」「模倣対策」「専門的すぎない内容」
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