選ばれるためにすべきなのは、「届けたい相手がほしい情報」を登録すること
スキルやサービス、商品のマッチングからM&Aまで、企業同士や企業と個人を結ぶ「ビジネス・マッチング」サービスの活用が進んでいます。多くの人が利用する中で、埋もれることなく、選ばれるためにはどうすればよいでしょうか。まずはビジネス・マッチングサイトに基本情報を登録する際のコツを教えてください。
ビジネス・マッチングサイトに登録する際、自社のアピールポイントとして何を書いたらよいのか戸惑う方は多いでしょう。その理由は相手の顔が見えないからです。誰に話しているのか、誰に伝えているのかがわからなければ、どんな人でも上手に話すことはできません。
そのため、まずはどんな企業から仕事を受けたいのかをイメージしてみてください。
自分の仕事は、「何に困っている人の、どんな問題を解決できるのか」ということを考えるとよいでしょう。これまでに取引のあったお客様の具体的な事例をイメージして、そのお客様に対して何を伝えたらよいかを考えてみるのも効果的です。
選ばれたい、と思えば思うほど、自分のことを一生懸命書こうとしてしまいがちですが、仕事は相手がいて初めて成り立ちます。まずは、「どんな人に選ばれたくて、その人がほしいものは何なのか」を整理することが重要です。
次に、サイト内で同業他社の情報を検索して調査をします。製品・サービスの分野、キーワードなどで検索ができるので、すでに掲載されている同業他社の情報を集めてください。他社の情報を確認し、同業の自分から見て、他社に足りない情報は何なのか、自社の強みはどこに出せるのかを考えましょう。
お客様のイメージをつかみ、競合の情報を集めたら、自社の掲載情報を作成します。ビジネス・マッチングサービスでは選ばれるまでお客様と対面することはありません。文字情報だけで、仕事を依頼するかどうかを検討していただく必要があります。自分の仕事が、誰のどんな悩みに対して、どれくらいの期間と金額で解決できるのか、具体的な情報を記載しましょう。それが「一度、話を聞いてみたい」と思ってもらうための秘訣です。
具体的に、これだけは外さずに記載したほうがいい、という項目はありますか?
以下の項目は必ず書くようにしてください。
・明確なタイトル
・仕事の詳細な説明
・金額の目安
・作業期間、納期
・事例、ポートフォリオ(実績)
・受託後の流れ
タイトルは、より具体的に書いたほうが伝わりやすくなります。例えば、「あなたの代わりに資料を作ります」と書くよりも、「カッコいい会社概要を作ります」と書いてあったほうが相手はイメージしやすくなります。また、「面倒なエクセル集計を代行します」より「1時間かかる表計算の集計を5000円で外注しませんか」と書いたほうがいいでしょう。
登録後は必ず、実際に掲載されている画面の表示を確認してください。その際の確認ポイントが2つあります。
1. タイトルと名前など一部の項目だけが並ぶ「一覧画面」の表示がわかりやすいか。
2. タイトル等をクリックした後に表示される「内容詳細」がわかりやすいか。
仕事のパートナーを探している際、まず一覧画面を見て、どの会社や個人に依頼するかを検討します。そのため、この一覧画面の表示内容がわかりにくいと受注確率が大幅に落ちてしまいます。「タイトル」と「本文の要約」部分の表示だけでわかりやすく伝わるようになっているかを必ず確認してください。
サイトに組み込まれたAI等で、機械的に案件内容の冒頭部分が要約されて表示される場合もあります。この表示までこだわっている会社は少ないため、要約を意識した案件内容を作成することができれば、一覧画面で他社よりも圧倒的に響く情報を伝えることができるはずです。
しかし、せっかく一覧から選ばれても、内容詳細画面で離脱されてしまってはもったいないことになります。記載している内容に誤字・脱字がないかを確認し、改行の位置などでもっと読みやすくできないかを、選んでくださった方の側に立って推敲してください。可能であれば、この段階で第三者に見てもらい、客観的な意見をもらった上で内容を改善すると、さらに選ばれる確率を高めることができるでしょう。
自分や自社が得意な仕事、できる仕事や世間のニーズは日々変わっていきます。仕事を続けていくうちに新たな実績ができることもあるでしょう。一度登録したら終わりではなく、反応を見ながらPDCAを回していくことが大事です。一度でうまくいくなんてことはありませんから、試行錯誤を繰り返してください。
【ビジネス・マッチングサービス登録時のポイントまとめ】
・まずは「どんな企業から仕事を受けたいか」をしっかりイメージする
・同業他社の情報を確認し、「他社に足りない情報」「自社の強み」を考えて自社の掲載情報に盛り込む
・自社の掲載情報に、明確なタイトル/仕事の詳細説明/金額目安/作業期間・納期/事例・実績/受託後の流れを必ず盛り込む
・サイト上の実際の表示で自社の掲載情報を確認し、誤字・脱字、改行位置などを推敲する
・掲載後もPDCAを回して内容をブラッシュアップしていく
プレゼン時の資料はシンプルに。商談時は相手の話を「聞き出す」ことに徹する
プラットフォーム上でマッチングすることができ、対面やオンラインでのプレゼンまでこぎつけたとします。その際はどんな資料を準備すればよいでしょうか。
実際にプレゼンの場を設けられるということは、何かしらに期待して、相手が自分のために時間を作ってくれるということです。相手の時間をムダにしないためにも、相手が何の情報がほしいのかを事前に把握して、準備してから臨みましょう。
ここで少し僕の経歴をお話しすると、大学を卒業後、広告代理店に就職してインターネット広告に携わった後、2015年に株式会社はこを設立しました。インターネット広告の業界で働いて20年になります。長いキャリアの中では多くの企業にプレゼンをする機会がありました。広告代理店で働いていた頃は月に1000枚ほどの資料を作っていたのですが、誰も資料の作り方なんて教えてくれません。効率化するにはどうすればよいかを自分自身で考え続けながら、ノウハウを蓄積してきました。
この経験を踏まえて最も伝えたいのは、プレゼン資料はいかにシンプルにまとめていくかが重要だということです。何十枚にもわたる資料を渡しても、皆さんお忙しいですから、読み込んでもらえません。できるだけ文字量やフォントの種類、色数も減らし、写真の配置も固定するなど、ルールが明確で見やすい資料作成を心掛けてください。
ただし、自分が説明できるプレゼンの場での資料はシンプルでよいのですが、お客様によってはその後、担当者の方が社内決裁を取る必要がある場合があります。その際にはプレゼン時とは別に、読むだけで詳細まで理解できる資料を準備して送るようにしてください。
プレゼンや商談で気を付けるべきポイントについて教えてください。
「人間性を確認したい」「お金については会って話したい」「今ある課題の解決策がほしい」など、相手はマッチングサービス上の情報だけでは足りない要素を埋めるためにわざわざ時間を使って会うのです。貴重な時間を使わせていることを理解して臨みましょう。課題の解決策を求めている場合は、社内にない知見がほしいわけですから、「相手がほしい情報を伝えて帰る」ことを意識してください。例えば、Webデザイナーであれば、相手が知らないような業界のトレンドや一般的な業務の流れを話すなどといったことです。
先ほど、資料はよりシンプルなほうがいいとお伝えしましたが、どれだけ立派な資料を用意していても、最終的にはプレゼンで熱意を持って話せるかどうかで結果は変わってきます。自分の言葉で、自分のやりたいことやできることをしっかり伝えられると、圧倒的に決定率は高くなります。
ただし、商談時には自分が話すことよりも相手の話を聞くことを意識してほしいと思います。上手くいく商談のポイントは「自分を売り込む」のではなく、「相手に話してもらえる」状況を作ることです。相手の困りごとを聞き出し、整理し、解決策を提案する。自分に解決できない問題であれば、「あなたの課題を解決できるこんな人がいます」と紹介すると喜ばれます。いい関係性を築くことができれば、たとえ今回は受注に至らなかったとしても、将来的に別の案件でつながる可能性もあります。
【プレゼン・商談時のポイントまとめ】
・プレゼン資料は見やすくシンプルにまとめる
・プレゼンに参加しない決裁者がいる場合は、プレゼン資料とは別に読むだけですべてがわかる詳細資料を用意する
・相手のほしい情報を把握して、必ず伝えて帰る
・自分の言葉でやりたいこと・できることを熱意を持って伝える
・自分が話す以上に相手の話を聞いて困りごとを引き出し、解決策やその方向性を提示する
最後に、日々経営課題に取り組んでいる中小企業経営者や個人事業主の方にメッセージをお願いします。
ビジネス・マッチングサービスは、普段はなかなか出会えないようなお客様と出会うチャンスです。基本は日頃やりとりをしているお客様に提案するのと同じなので、難しく考える必要はまったくありません。普段の仕事と違うのは、「目の前にお客様がいないこと」だけ。でも、目に見えないだけで、画面の向こうに必ずお客様はいます。その見えないお客様に向けて自らのサービスを伝えることができれば、必ず新しい仕事や出会いにつながるはずです。自分のやりたい仕事やつながりたい人を明確にした上で、得たチャンスを1つずつ形にして、つながったお客様に自社ならではの価値を提供していただきたいと思います。
何かを始めなければ、新しいチャンスは生まれません。まずはビジネス・マッチングサービスを始めてみて、試行錯誤を繰り返しながら、ぜひ新たなビジネスチャンスを創出してください。
アメリカン・エキスプレスのビジネス・カード会員様限定でご利用いただける、無料の登録制サービスです。課題解決やパートナー発掘、販路拡大などにお役立ていただけます。
■プロフィール
亀谷誠一郎(かめたに・せいいちろう)
株式会社はこ代表取締役
早稲田大学卒業後、株式会社サイバー・コミュニケーションズ入社。2006年サイバー・コミュニケーションズ九州支社を立上げ、九州エリア長に就任。「やずや」をはじめ、あらゆる通販会社のネット広告・メディアバイイングを統括。2011年より、売れるネット広告社創業メンバーの一人として、コンサルティング部、SaaS事業部、メディア部など各部署の立ち上げを行ったほか、人事・総務の責任者として会社を成長に導いた。個人として、過去のインターネット媒体の取り扱い総額は500億を超える。著書『通過率84.6%のプロが教える資料作成&プレゼン大全』(大和出版)は実用的で明快な資料作りを含むプレゼンノウハウが詰まっていると好評。
株式会社はこ(外部サイトに移動します)
■スタッフクレジット
取材・文:尾越まり恵 編集:日経BPコンサルティング