「オフィスでのふるまい方」を忘れた従業員たち
キャリア支援サービスを提供する米企業レジュメ・ビルダーは、「10社に6社以上の企業がビジネスマナー研修を導入中、あるいは導入予定である」と2023年7月のリリース(外部サイトに移動します)にて発表した。同社による、1548人のビジネスリーダーを対象とした調査結果では、45%の企業がすでにビジネスマナー研修を社内で実施中であり、18%が近いうちに実施する予定だと回答している。
研修で特に重視されるスキルは「礼儀正しい会話」と「プロフェッショナルな服装」であり、次に続いたのは「職務にふさわしいEメールの書き方」だった。
米誌「フォーチュン」は2024年1月掲載の記事(外部サイトに移動します)で、この調査結果を取り上げ、「アイコンタクトの取り方など基本的なコミュニケーションのレッスンが必要なのは若い世代だけではない」と報じる。回答結果を見ても、全従業員に研修を義務付ける企業は60%にも上る。一方で、新入社員のみに研修を施すと回答したのはわずか10%だった。
経営者たちはビジネスマナー研修の導入に踏み切った理由について「雰囲気の悪い職場環境に対する苦情」や「特定の従業員のふるまいに対する顧客からのクレーム」などを挙げる。フォーチュンの記事では「パンデミックの最中にパジャマ姿のままで仕事をして、同僚との付き合いもなかった従業員はオフィスでのふるまい方を忘れてしまったようだ」とも書かれている。
ビジネスマナー研修で企業の価値観が浸透する
すでにビジネスマナー研修を導入した企業は確かな感触を得ているようだ。研修を実施した企業の99%は「非常に効果があった」「ある程度の効果があった」と回答している。レジュメ・ビルダーのインタビューに応じたある回答者はこう述べている。
「新人だけではなく、チーム全員にとってオフィスのビジネスマナー研修は欠かせません。礼儀正しく、かつ協力的な職場環境を育むことができるのです」
米メディア「ビズリポート」共同創業者のヤング・ファムも、ビジネスマナー研修の重要性を感じた一人だ。
「当初は新入社員だけを対象に導入したのですが、すぐに経験や役職に関係なく全従業員に受講してもらうことで、会社の大事にする価値観を浸透させられることに気がつきました」
米誌「アントレプレナー」も、2023年7月に掲載した記事(外部サイトに移動します)で、ビジネスマナー研修への参加を義務化する企業が増加したことをうけ、職場で求められるコミュニケーション能力などのソフトスキルの習得は、コロナ禍を経た企業の「新たなトレンド」になると予測している。
同記事では、ビジネスマナーを学ぶワークショップを提供する米企業「ビジネス・トレーニング・ワーク」の事例を紹介。わずか36名を対象にした2日間の対面研修で1万4100ドルと高額な料金にもかかわらず、アドビやディズニー、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの米企業は従業員への投資を惜しまないという。
また、従来のビジネスマナー研修に加え、ビデオ会議での疲労を防ぐ方法やオンライン上での適切なコミュニケーションなど、オンライン業務に特化した講習を導入する企業もある。
Z世代の「ソフトスキル」を補う動きも
幅広い年齢層の従業員にビジネスマナー研修が広がるなか、コロナ禍で新社会人時代を過ごしたZ世代に特化した研修も注目されている。前出のレジュメ・ビルダーの調査では、経営者たちが、Z世代はITリテラシーなど職務に必要な技能には長けていると評価する一方で、「建設的な批判に打たれ弱い」「論争を呼ぶような話題を職場で持ち出してしまう」などコミュニケーション・スキルへの不安を挙げる回答も目立った。
背景には、Z世代は従来のようにオフィスでのコミュニケーション能力を培う機会が希少化したことも考えられるが、多くの企業が以前ほどヒエラルキーに重きを置く企業文化ではなくなった点も原因だとの意見もある。スイスのウェブメディア「スイス・インフォ」は、スイス企業のビジネスマナー研修事情について2023年7月に報じている (外部サイトに移動します)。
記事内で、スイスの研修企業「フィット・フォー・スクール」講師のクリスチャン・リーダーは「若い世代には参考になる存在が欠けている」と語る。かつて従業員は、上司に話しかけるときには「ミスター」や「サー」と敬称をつけたり、上司も役職を示すためにあらたまった服装をしたりしていたが、昨今のフラットな職場を重視する企業ではそのような風潮は当てはまらなくなった。
リーダーはビジネスマナー研修で、新社会人たちに職場ではスマホをミュートにする、対話やメールでスラングを使わない、強すぎる香水は避けるなどの基本的なマナーを伝えており、クライアントからの研修依頼は増えていると語る。
コロナ禍による働き方のシフトや企業文化の変化に鑑みると、「プロフェッショナルとしてのマナー」を備えていないことの責任を従業員だけに負わせるのは難しい。幅広い世代の従業員にソフトスキルを学んでもらうのにはいまが重要な時期であり、企業内の共通言語として機能させることで、より良い企業文化を築く土台になるはずだ。
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文・編集:クーリエ・ジャポン(講談社)
写真:Getty Images