■監修者プロフィール
田中 卓也(たなか・たくや)
税理士、CFP®
中央大学商学部で学んだ後、東京都内の税理士事務所での勤務を経て、田中卓也税理士事務所を開業。記帳代行・税務相談・税務申告をはじめ、事業計画の作成やサポート等の経営相談、キャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・次号継承対策など、経営者や個人事業主のサポートを幅広く行う。そのほか、一生活者目線で、講師・執筆活動や講演活動にも取り組んでいる。
田中卓也税理士事務所(外部サイトに移動します)
【目次】
開業とは新しく事業や商売を始めること
開業するまでのステップ
開業する(開業届を出す)メリット
開業する際の注意点 開業と起業・創業・独立の違い
開業についてのまとめ
開業とは新しく事業や商売を始めること
「開業」とは、新しく事業や商売を始めることです。一般的には、個人が開業届を出し、個人事業主として新たに事業を始めるケースで使われます。
個人事業主として事業を始める場合、事業開始から1ヶ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書 (外部サイトへ移動します)」を管轄の税務署に出すこととされていますが、出さなかったとしてもペナルティはありません。事業実態があれば個人事業主と名乗り、事業を行うことができますが、事業で得た所得については年末に必ず確定申告をしなければならず、青色申告特別控除を受けるには事前に税務署からの開業届の承認を受けることが必要です。
青色申告を行うためには「所得税の青色申告承認申請書」を提出しなくてはなりません。その申請書の提出期限は原則、「事業開始等の日からから2ヶ月以内」とされているため、「事業の開始の日」を明確にするためにも開業届を提出しておいたほうがいいでしょう。
また、対外的な信用という意味でも、開業届を出しておいた方が事業を行ううえで有利に働きます。例えば、開業届が受理されてから、屋号で銀行口座を開設することで、自分が信用に値する事業主であるという印象を取引先に与えることができます。これらのことから、開業を決めたら開業届の準備をし、きちんと手続きを済ませておくことが望ましいでしょう。
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開業するまでのステップ
開業するまでの準備や手続きについて、5つのステップにわけて解説します。
STEP1. 開業する理由や目的を考える
思いつきや勢いで開業すると、すぐに資金がショートしたり、自分のモチベーションが続かなかったりして、事業を継続するのが難しくなります。また、開業後の働き方を具体的に想定していないと、理想と相反する働き方になることも少なくありません。「ワークライフバランスを整えたい」と開業したはずなのに、会社勤めの時代よりも多忙になってしまったといったケースなどはその典型といえるでしょう。
何のために開業するのか、開業することによって何が得たいのかを十分検討し、目的を明確にしたうえで開業に踏み切ることが大切です。開業後のライフスタイルもしっかりイメージしておきましょう。
STEP2. 事業計画を立てる
次に、STEP1で決めた目的の達成に向けて、事業計画を立てます。「誰に」「何を」「どうやって」「いつまでに」提供するのかを具体化し、競合優位性や市場を調査したうえで特徴やコンセプトなどを事業計画に落とし込むことが重要です。
事業計画が決まったら、想定される売上や利益をもとに納税額をシミュレーションしてみましょう。個人事業主と法人では課税される税率に違いがあるため、シミュレーションした納税額をもとに形態を個人事業主にするか、法人にするかを検討し、決めるのがいいでしょう。
事業の具体的な内容や収支見込みなどは、資金調達や事業の見直しに備えて事業計画書としてまとめておきましょう。
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STEP3. 開業に必要な資金を集める
続いて、事業計画をもとに、事業が軌道に乗るまでの期間に必要な自己資金を算出します。開業に必要な資金は、オフィスの賃料やパソコンなどの設備にかかる「設備資金」と、光熱費や広告宣伝費など継続的にかかる「運転資金」に分けられます。このうち、運転資金は、開業から3ヶ月程度までは売上がなくても支払えるように準備しておいたほうがいいとされています。
自己資金が足りなければ、金融機関からの融資、補助金や助成金の申請、クラウドファンディングなどで調達することを検討しましょう。
STEP4. 開業に必要な手続きや届け出を行う
個人事業主として開業する場合は、事業を開始した日から1ヶ月以内に所轄の税務署へ開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を提出します。確定申告で青色申告を行いたい場合は、その事業開始等の日から2ヶ月以内に「所得税の青色申告承認申請書 (外部サイトに移動します)」も提出が必要です。
なお、法人を設立する場合は、設立から2ヶ月以内に「法人設立届出書 (外部サイトに移動します)」などの書類を会社の所在地を管轄する税務署に提出します。
法人の場合も、青色申告の承認を受けるには手続きが別途必要です。その場合には、「青色申告の承認申請書(外部サイトに移動します)」を提出しますが、所得税と同様に提出期限があり、例えば、普通法人の場合には「設立の日以後3ヶ月を経過した日と当該事業年度終了の日とのうちいずれか早い日の前日まで」とされているため、注意が必要です。
STEP5. 事業を始める準備をする
続いて、事業開始に向けて設備と人員の準備をします。飲食店や小売店など、店舗を持つ場合は仕入れ先の決定、店舗の内装・外装の工事などを行いましょう。
なお、従業員を雇用する場合は、例えば、オープン日までには研修を終えて就業してもらえるようにするなど、採用活動を計画的に行いましょう。スムーズに進めるために必要な準備は何かを考えておくことが重要です。
開業する(開業届を出す)メリット
開業届を出すメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。ここでは、個人で開業するメリットについて紹介します。
青色申告により最大65万円の控除が受けられる
開業して所得を得ると所得税がかかりますが、青色申告の場合、所得から最大65万円が控除される青色申告特別控除によって税負担の軽減が可能です。青色申告では、ほかにも以下のような税負担の軽減方法があります。
<青色申告での税負担の軽減方法のうち主なもの>
・家族に支払う給与を経費計上できる(青色事業専従者給与に関する届出手続が必要)
・赤字を3年間繰り越しできる
・減価償却の特例として、30万円未満の固定資産を一括して全額計計上できる(年間合計300万円まで)
ただし、青色申告特別控除を受けるには、個人事業の開業届出手続きから原則2ヶ月以内に「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。
小規模企業共済に加入できる
個人事業主や小規模企業の経営者が廃業や退職に備えて積み立てる「小規模企業共済」は開業届を提出しないと加入できません。備えをつくれることはメリットのひとつといえるでしょう。掛け金は「小規模企業共済等掛金控除」として全額控除できるため、退職金やリタイア後の年金不足額を補てんする準備をしながら節税できることもまた、メリットです。
顧客や取引先からの信頼度が高まる
もう1つメリットといえるのは、事業を行っていることに対して社会的な信用が得られることでしょう。開業届を出すと、事業用の口座開設やクレジットカードの発行がスムーズになるほか、屋号で口座を作ることによって対外的な信用力を高めることにもつながるでしょう。
開業する際の注意点
一方で、開業する際には注意しておきたいポイントもありますので、確認しておきましょう。
失業手当の受給期間延長を申請しておく
もし、開業前に仕事をしていた場合、勤め先で雇用保険に加入していれば、離職した日の翌日から1年間は失業手当の給付を受けることができます。しかし、失業手当は再就職の意思があることを前提としているため、退職後に求職活動を行わずに開業した場合は対象外とみなされることがありました。
こうした事態を回避するため、失業給付の受給期間を1年間から最大3年間まで延長し、事業が軌道に乗らず廃業する場合にも失業手当を受給できる「雇用保険受給期間の特例 (外部サイトに移動します)」が2022年7月から新設されています。
健康保険料
もし、開業前に家族や配偶者の被扶養者として健康保険に加入していた場合、開業届を出すことで被扶養者から外れ、健康保険料を支払う可能性があることも注意すべき点のひとつです。収入や所得の上限を定めて加入の可否を決める、収入額にかかわらず個人事業主は扶養から外すなど、健康保険組合によって対応は異なりますので、必ず事前に確認しておきましょう。
開業と起業・創業・独立の違い
最後に、開業と同じ「新しく事業を行う」意味合いで使われる「起業」「創業」「独立」について、それぞれのニュアンスの違いと使い分け方を紹介します。
「起業」とは新しい事業を起こすこと
「起業」は、文字通り新しく事業を起こす際に使われる表現です。開業と新しく事業を始めるという意味では同じ意味合いですが、これまでにない分野の開拓を目指したり、新規領域に挑むスタートアップ企業やベンチャー企業などが、新しい事業を未来に立ち上げることに向けて法人を立ち上げたりするケースを指すのが一般的です。
「創業」とは事業を始めること
「創業」も、新しく事業を始めることを表します。ただし、過去に事業を始めた時点を示すために使われます。
よくある例としては「1976年創業の老舗」「創業70周年記念」といった表現です。
「独立」とは会社などの組織から個人事業主に転身するもしくは自身で法人を立ち上げること
「独立」は、これまで属していた組織を離れて個人事業主になったり、法人を立ち上げたりする際に使われます。自身の力で事業を運営し、生計を立てることを表すため、組織に籍を置いたまま副業として事業を始める場合や、元々組織に属していなかったフリーランスや主婦・主夫などが事業を営む場合は使いません。そういった場合は、「独立」ではなく「開業」が適しているといえるでしょう。
開業についてのまとめ
ここまで、開業について解説してきました。以下に要点をまとめます。
・「開業」とは新しく事業や商売を始めることで、個人が開業届を出して事業を開始するケースが一般的
・開業する際のステップは、開業の理由や目的の明確化、事業計画の策定、必要な資金の調達、手続きや届け出の実施、事業開始に向けた準備などが挙げられる
・開業する(開業届を出す)メリットとしては、青色申告による税負担の軽減(追加で手続きが必要)や小規模企業共済への加入、取引先からの信頼度向上などがある
・一方、失業保険が受け取れない、健康保険の負担が増えるなどの注意点もあるため、事前に十分な検討が必要
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