【目次】
損益分岐点とは、事業の損益がゼロになるポイント
損益分岐点の算出や分析に必要な項目と計算方法
損益分岐点の算出方法
損益分岐点売上高を活用して行う分析
損益分岐点を下げる方法
損益分岐点のまとめ
監修者プロフィール
田中 卓也(たなか たくや)
税理士、CFP®
中央大学商学部で学んだ後、東京都内の税理士事務所での勤務を経て、田中卓也税理士事務所を開業。記帳代行、税務相談、税務申告をはじめ、事業計画の作成やサポート等の経営相談、キャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・事業継承対策など、経営者や個人事業主のサポートを幅広く行う。そのほか、一生活者目線で、講師や執筆活動、講演活動にも取り組んでいる。
田中卓也税理士事務所(外部サイトに移動します)
損益分岐点とは、事業の損益がゼロになるポイント
損益分岐点(Break-Even Point)とは、事業の売上と経費がちょうどつり合い、損益がゼロになるポイントを指し、赤字でも黒字でもなく事業を運営できている状態であることを示します。損益分岐点を上回る売上があれば黒字、下回れば赤字となります。
安定的な事業運営のためには、損益分岐点を割り出し、「どのくらいの売上で黒字になるのか」を踏まえて経営計画や事業計画を立てることが重要です。ただし、損益分岐点を上回り黒字であっても、キャッシュフローが赤字の場合は、いわゆる黒字倒産になるおそれもあるため、注意が必要です。
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損益分岐点の算出や分析に必要な項目と計算方法
損益分岐点を算出するために必要な項目は、大きく4つあります。損益分岐点の算出方法を説明する前に、それぞれの項目についてと、どのように準備すればいいかを解説します。
売上高
売上高とは、一定期間における事業活動の対価として得た総額を指します。本業でどれだけ稼げているかがわかる数字であり、企業の業績を示すわかりやすい指標だといえます。損益分岐点を計算する際には、一事業年度、四半期、単月といった一会計期における収入の総額を使うのが一般的です。
売上高は、財務諸表の1つである損益計算書の一番上に記載されているため、その金額を用いて損益分岐点を計算します。
固定費
固定費とは、売上にかかわらず、毎月決まって発生するすべての費用を指します。例えば、人件費やオフィスの賃料、機器のリース料、水道光熱費などが該当します。水道光熱費や人件費は月によって金額が変わることがありますが、損益分岐点を算出する際は「事業運営や雇用にあたって必ず発生する費用」や「毎月ある程度決まった額を支払う項目」は固定費に含まれます。そのため、年間の実績から平均費用を出すか、おおよその予算を決めるかして、固定費とするとよいでしょう。
固定費の準備にも、損益計算書を使用します。前述した人件費や家賃などが含まれる「販売費および一般管理費」の項目のほか、設備や建物などの固定資産に対する「減価償却費」の項目も固定費として計上されるため、併せて確認することが大切です。
上記のように、四半期あるいは単月ごとに固定費を見直す場合には、月ごとの予算を決めて積み上げる、または年間予算を月ごとに割り振るといった作業も必要です。
変動費、変動費率
変動費とは、生産量や販売量といった操業度の増減に比例して変動する費用を指します。具体的には、原材料費や商品の仕入れ費用、外注費などが該当します。例えば、普段1,000個の商品を製造している企業に大型受注が入り、5,000個の商品を作ることになった場合、4,000個分の原材料費が新たに必要となります。このように、発注数が増えたことで必要となる費用などが変動費です。
変動費率とは売上高のうち変動費が占める割合を示すもので、下記の計算式で算出できます。
<変動費率の計算式>
変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
変動費も損益計算書から求めることが可能です。材料費や仕入れ費用、外注費などが含まれる「売上原価」や「販売手数料や運送費」から大まかな費用を把握します。ただし、材料費や仕入れ費用は一時的に発生したり、季節変動の影響を受けたりすることもあるため、そのような場合は通常の変動費とは別に扱うようにしましょう。
なお、こちらも四半期または単月ごとに見直す場合には、それぞれの期間において「変動比率に変化はないか」といった点を見直すことが重要です。
限界利益、限界利益率
限界利益とは、売上高から変動費を差し引いた利益を指します。数字が大きいほど収益が上がっていることを示し、下記の計算式で求めることができます。
<限界利益の計算式>
限界利益 = 売上高 - 変動費
限界利益がマイナスの場合は商品を販売すると赤字になり、事業を継続しても損失が膨らんでしまうことを意味します。その場合には、変動費を下げるか、販売価格を見直して売上を増やす必要があるでしょう。
限界利益率とは売上高に対する限界利益の割合を測る指標です。限界利益率が大きいということは、売上高に対して変動費が低く、利益率が高いことを表しています。限界利益率の計算式は下記の2通りがあります。
<限界利益率の計算式>
限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
限界利益率 = 1 - 変動費率
限界利益は前述のとおり、損益計算書から求めた売上高と変動費をもとに計算します。ただし、変動費の計算が誤っていると正しい限界利益が計算できないため、注意が必要です。
損益分岐点の算出方法
損益分岐点を算出するためには、主に「損益分岐点販売数量」もしくは、「損益分岐点売上高」を用いるアプローチがあります。ここでは、それぞれの計算方法と計算例について紹介します。
損益分岐点販売数量による計算方法
損益分岐点販売数量とは、損益分岐点に達するために必要な販売数量を指し、赤字にならないために最低限商品やサービスをいくつ販売しなければならないのかの指標として活用されます。
<損益分岐点販売数量の計算式>
損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ 1個あたり限界利益
例えば、固定費50,000円、原材料費750円で、売り上げ単価1,000円の商品を販売している場合、1個あたりの限界利益は1,000円−750円=250円となります。この数字を、原材料費以外に変動費がないという前提で、損益分岐点販売数量の計算式にあてはめてみましょう。
損益分岐点販売数量 = 50,000円 ÷ 250円 = 200個
つまり、赤字にならないために最低限販売すべき数量は200個となります。
損益分岐点売上高による計算方法
損益分岐点売上高とは、損益分岐点に達するために必要な売上高を指し、赤字を防ぐための売上高の指標として用いられます。
<損益分岐点売上高の計算式>
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
例えば、固定費となる店舗の家賃と従業員の給料に、月300,000円がかかり、仕入れに1個400円かかる雑貨を1,000円で販売している場合、1個あたりの雑貨の限界利益と限界利益率は下記のとおりになります。
限界利益 = 1,000円 - 400円 = 600円
限界利益率 = 600円 ÷ 1,000円 = 0.60(60%)
したがって、月間の損益分岐点売上高は、以下のように計算できます。
損益分岐点売上高 = 300,000円 ÷ 0.60 = 500,000円
つまり、毎月売上高が500,000円以上あれば、赤字を防げることがわかります。
損益分岐点売上高を活用して行う分析
損益分岐点売上高を活用することで、売上減少による経営への影響や、事業の安全性、売り上げ目標の分析を行うことができます。それぞれについて、計算方法などを解説します。
損益分岐点比率で分析する、売上減少による経営への影響
損益分岐点比率とは、損益分岐点売上高と現在の売上高を比較して、赤字になる水準を表す指標です。売上の減少に対する耐性を分析するのに使われます。
損益分岐点比率からは「現在の売上高から、どこまでなら低下しても良いか」を把握できます。企業の規模や業種によっても異なりますが、企業規模や業種別の損益分岐点比率の平均については、中小企業庁の「2021年版 中小企業白書(外部サイトにリンクします)」で確認することが可能です。基準として、損益分岐点比率が80%を下回っていれば経営状態は良好で、売上高が減少しても赤字になりにくいと判断することができるでしょう。
損益分岐点比率の計算式は、下記のとおりです。
<損益分岐点比率の計算式>
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高
例えば、実際の売上高が5,000万円で損益分岐点売上高が4,000万円だった場合、4,000万円÷ 5,000万円= 0.8となり、損益分岐点比率は80%になります。
安全余裕率で分析する、事業の安全性
安全余裕率とは、損益分岐点売上高と実際の売上高との差を比率で示した指標です。安全余裕率を確認することで、損益分岐点から売上高がどの程度の比率で上回っているかがわかり、事業の安全性を分析できます。
日本の企業における安全余裕率は、一般的に10%~20%未満が平均的な基準とされています。これより数値が高いほど損益分岐点を上回って大きな売上を出しているということであり、経営の安全性が高いと見ることができます。
ただし、この10%~20%未満という数字はあくまで目安であって、絶対ではない点に注意が必要です。例えば、製品には導入期、成長期、成熟期、衰退期というライフサイクルがあります。成熟期と衰退期の製品をメインに扱っている企業であれば、安全余裕率が25%以上あっても余裕ではないかもしれません。逆に、導入期、成長期の製品を扱っている企業であれば、安全余裕率が今は15%程度でも今後の伸びが期待できます。また、安全余裕率の基準は、市場や製品における競争力などによっても異なるため、「安全余裕率は損益分岐点までの猶予率」であるというように捉えておくとよいでしょう。
安全余裕率を高めるためには、売上高を伸ばすか、損益分岐点売上高を下げることが必要です。安全余裕率の計算式は、下記のとおりです。
<安全余裕率の計算式>
安全余裕率 = (売上高 - 損益分岐点売上高) ÷ 売上高
前述のケースと同様、売上高5,000万円、損益分岐点売上高4,000万円で計算すると、(5,000万円- 4,000万円) ÷ 5,000万円 = 0.2となり、安全余裕率は20%になります。
目標利益達成売上高で分析する、売上目標
目標利益達成売上高とは、目標とする利益の達成に必要な売上高を指します。目標利益を達成するために必要な売上高を算出することで、自社の商品価格や固定費が適切かどうかを分析することができます。目標利益達成売上高の計算式は、下記のとおりです。
<目標利益達成売上高の算出方法>
目標利益達成売上高 = (固定費+目標の利益) ÷ 限界利益率
例えば、損益分岐点売上高4,000万円の会社の限界利益率が25%、固定費が1,000万円で目標利益を250万円とした場合、(1,000万円+250万円) ÷ 25%で、目標利益達成売上高は5,000万円になります。
この5,000万円の売上高を達成することが難しい場合、コスト削減により固定費の1,000万円を下げる、または商品価格を値上げして限界利益率を上げるなどといった対策を取ることができます。
損益分岐点を下げる方法
損益分岐点は、前述のとおり、事業の売上と経費がちょうどつり合う点を指しますので、損益分岐点が低ければ低いほど利益が出しやすいということになります。目標とする利益に最短距離で近づくためには、損益分岐点を下げることは有効だといえるでしょう。損益分岐点を下げる方法を3つ紹介します。
固定費の削減
損益分岐点を下げるために有効な方法の1つが、発生する固定費の削減です。固定費を削減することで、売上が変わらなくても損益分岐点を下げることができます。最も取り組みやすく、効果も出やすい方法だといえるでしょう。
固定費を削減する際に、注意が必要なのは、人件費です。安易に削減すると、人手不足による品質の低下や、従業員のモチベーション低下といったリスクとなる可能性があります。まずは、家賃や光熱費などの見直しや、業務効率化により労働時間の短縮を図るなどから検討しましょう。
変動費の削減
変動費の削減も、損益分岐点を下げるために有効な方法の1つです。この方法のメリットは、商品やサービスの販売価格を変えずに限界利益を上げられることです。
変動費を下げることだけを考えてしまい、材料費や外注費などを下げることで商品やサービスの品質が落ち、顧客満足度を低下させてしまわないよう注意が必要です。利益率の高い商品の販売に注力をする、効率的に仕入れることでコストを削減するなど、品質を変えずに変動費を下げることを検討しましょう。
商品の販売価格の値上げ
商品の販売価格の値上げも、損益分岐点を下げる方法の1つです。販売価格を値上げすることで、商品1つあたりの限界利益を上げることが可能です。
販売価格を値上げすることで、顧客の購買意欲を下げてしまう可能性もあるため注意が必要です。販売価格を上げることが売上高の減少につながってしまわないように、十分に検討しましょう。
損益分岐点のまとめ
損益分岐点についての要点をまとめます。
・損益分岐点とは、事業の売上と経費がつり合い、損益がゼロになるポイント
・損益分岐点を算出することで、事業が赤字にならないために必要な販売数量や売上高を把握できる
・損益分岐点を活用すると、売上減少による経営への影響や事業の安全性、目標利益を達成するために必要な売上高などを分析できる
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