「自分が抱えている課題は、ほかの人たちも抱えている課題である」
――ベースフードを起業された経緯を教えてください。
起業前はIT系の会社に勤めていたのですが、新規事業を担当していたこともあり、「いつか独立して、自分も新規事業を立ち上げたい」と考えていました。そして、「どうせやるのであれば、社会課題を解決したい」という思いを強く持っていました。
ただ、一言で社会課題といってもさまざまです。「どのような社会課題が良いか」と考えたときに、「自分が抱えている課題は、ほかの人たちも抱えているのではないか」と思い至りました。では、私自身はどのような課題を抱えているのか。当時の自分はいつも忙しくて、食事はラーメンやカレー、コンビニが中心で自分の健康に不安を感じていました。健康になるためには、栄養、睡眠、運動の三つが基本的には必要ですが、そのなかで一番難しかったのが、栄養のある食事をとることでした。
一方で社会に目を向けてみると、少子高齢化に伴い社会保障費が増大し、豊かな社会を維持するうえで大きなハードルとなっています。特に、若い世代が多くの社会保障関連の費用を支払わなければならない状況になっていますよね。彼らの負担を軽減するにはどうすれば良いか? 出生率を改善する、社会全体の生産性を上げ社会保障費の原資をつくる、などさまざまな方法がありますが、私は健康寿命を伸ばすことが重要だと考えました。健康寿命が伸びれば、その分、医療や介護を受ける時間が短くなり、社会保障費も少なくて済むからです。
私自身が課題だと感じていた栄養の改善と、社会全体の健康における課題の根本は一致していると確信しました。そこで、「忙しくてもこれさえ取り入れれば、バランスよく栄養がとれる」といういままでにないプロダクトをつくるため、ベースフードを起業しました。
ベースフードCEOの橋本舜氏
――なぜ「主食」に着目されたのでしょうか?
健康になりたいからと、サラダばかりでは食事の時間が楽しくないですよね。糖質が高いからと、ラーメンやパスタをずっと我慢し続けるのも難しい。だからこそ、食事を提供する企業は、食べてくれる人が我慢せずに美味しく食べられて、なおかつ健康になれる商品をつくる努力が必要なのです。そこでぼくは、何十年も日常的に食べ続いているパスタやブレッドなどの「主食」を変えていければ、日々の生活になじみながらも、長年にわたって健康習慣を身につけていくことができると考えました。
応援してくれているお客さまや社員たちの意見を取り入れ、ブラッシュアップ
――ベースフードの販売にあたり、どのようなことに力を注がれましたか?
特に大切にしたのは、スタートしたばかりのベースフードを応援してくださるお客さまや社員たちの意見を取り入れることでした。実際に、試食会などにもお客さまを招待し、直接意見をうかがいながら改善のポイントを探り、サービス内容を充実させていきました。
またパン職人、麺職人や料理人の方など、食のプロフェッショナルにも食べていただき、アドバイスもいただいています。そこで「おいしい」と言ってくださった方の店で実際にメニューとして提供してもらうことができれば、より多くの人にベースフードのおいしさを実感していただけると考えています。
最初のプロダクト「BASE PASTA」
――集まったフィードバックをプロダクト・サービスに取り込むうえで、大切にされている基準を教えてください。
ひとつは、より多くの人に「ベースフードはおいしい」と思っていただけるか。そして、主食のイノベーションを起こすうえで、最短ルートになるかどうかです。
たとえば試作品をつくったときは、さまざまなライフスタイルの人に意見をうかがいました。「朝ごはんに取り入れたい」「もっとふわふわがいい」「香ばしいほうがいい」など、多様なニーズがありましたね。そうやって広く意見を集めたうえで、技術的な面や自分たちの信念と照らし合わせ、取捨選択していきました。「BASE BREAD」のメープルやシナモン味も、「おやつで食べられるものがいい」というお客さまのリクエストから誕生しています。
「BASE BREAD」シリーズ
――フィードバックを得るためにも、クラウドファンディングやECサイトでの販売からスタートされたということですね。
ただ売り上げを伸ばしたいだけであれば、スーパーで売ってもらうのが最短かもしれません。ですが、初めからそうしてしまうと、私たちに必要なフィードバックも届きませんし、成長にも限界があると思うのです。
テクニックを知ることよりも、社会に求められるプロダクトを育てていくことに注力する
――2021年3月から、ファミリーマートをはじめ首都圏の一部のコンビニでの販売を開始されていますね。
私たちは、コンビニ展開だけを目的に活動してきたわけではありません。「いつか私たちのプロダクトの価値が社会に認められるときが来るだろう」と信じて、誠実に努力を続けてきた結果、コンビニさんともお取引を開始することになりました。コロナ禍で社会が大きく変わったことも理由のひとつだと思いますが、コンビニさん側が「栄養バランスがいい食事を棚に置くなら」と考えたときに、弊社がそれに適していると思ってくださった。世の中のみなさんが期待してくださっているんだな、私たちのプロダクトが「未来のもの」から「いまのプロダクト」に進化したんだな、とブランドの成長を実感しました。
都内某所のファミリーマートで販売している様子
――ビジネスのスケールが大きくなると、会社規模のスケールアップも必要になってくるかと思うのですが、経営者として意識して取り組まれていることはありますか。
勉強し続けることです。ぼくはそれが経営者の最大の仕事だと思っていて、経営者は非常に影響力が強い存在だからこそ、成長が早ければ、社員の成長も、会社の成長も早くなる。哲学や物理学などの科学を学ぶことで、ビジネスレベルを超える論理的思考力なども身につけられると思います。
また、経営者のメンタルヘルスも甘くみてはいけません。会社のトップだからといって、心が強くなるわけではないので。心を病むと、判断どころかフィードバックを受け取ることすら難しくなります。同様に、社員の健康を守ることも大切ですね。社会を健康にしていこうとしている会社だからこそ、身近なひとや自分自身の健やかさを維持することからはじめていきたいです。
――最後に、これから起業される方やアーリーステージのスタートアップの仲間である経営者の方々に向けて、アドバイスやメッセージをいただけますか?
まず、スタートアップとは、単に事業を始めることではなく、誰も考えつかなかったオリジナルのアイデアで市場を開拓し、スピード感を持って成長していくことだと考えています。広い視野を持って、事業計画を立てることが大切だと思いますし、私たちを取り巻く社会も、そういったダイナミズムを起こせる企業に期待を寄せると思います。
ベースフードでも、実際にグローバル展開を目指して2019年にアメリカへ視察に行ったのですが、日本は食と健康というジャンルであれば、世界でナンバーワンを取れるとあらためて確信しました。現在はコロナ禍で海外事業をストップさせていますがこれからも挑戦をし続けたいと思っています。
このインタビューを読まれた際、「もっとマーケティングのノウハウを教えてよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし経営者がやるべきことは、具体的なマーケティングのテクニックを知ることよりも、社会に大きく貢献ができるオリジナリティーのあるアイデアを自分で見つけ、社会に求められるサービスに育てていくことだと思います。いいアイデアであれば、必ず優秀なマーケターが来てくれるはずですし、企業からの協力も得られ、資金もお客さまも自然と集まるはずです。
一方で、「これはすごいアイデアだ」というのは突然見つかるものではありません。私自身も「最大の社会問題は何か?」という問いから始まり、「少子高齢化かな、だとしたらそこにある問題は寿命と健康寿命の差かな、栄養バランスがよくなれば健康寿命が伸びるのかな……」と3か月くらいかけあらゆる可能性を考え抜き、最終的に「栄養バランスのいい主食」というアイデアにたどり着きました。
アイデアが固まったら、まずは好奇心の赴くままに、自分で手を動かしながらプロトタイプをつくってみるといいと思います。その経験から、「いままでなぜ、誰もやらなかったのか」というできない理由を自分でたしかめられます。そして「大変でも時間をかければ実現できる」と確信を得られたら、情熱を持って試行錯誤を続ける。自分だけの答えを見つけ、その道を突き詰めて唯一無二の専門家になることで、会社はもちろん、社会をリードする存在になれるはずです。
■プロフィール
橋本舜
1988年生まれ、大阪府出身。東京大学教養学部を卒業後、インターネット関連企業に入社し、新規事業などを担当。社会課題と向き合うなかで、健康維持・病気予防の重要性を強く認識し、退職後ベースフード株式会社を設立。栄養士や食品会社と協力して、日常の生活においしく違和感なく取り入れられる、世界初の完全栄養の主食「BASE PASTA」を開発。現在は「あたらしい主食」のさらなる展開を目指し、新商品の開発や国内外での普及に取り組んでいる。
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■スタッフクレジット
取材・文:宇治田エリ 編集:服部桃子、藤麻迪(株式会社CINRA)