【目次】
売掛金とは、企業間の信用取引において将来的に受け取る権利がある代金
売掛金と買掛金(商品やサービスを仕入れる側の未払い代金)との違い
売掛金と未収入金(本業以外で発生した未収代金)の違い
売掛金と前受金(商品の提供前に受け取る手付金)の違い
売掛金と立替金(従業員や取引先の費用を一時的に立て替えた代金)の違い
売掛金と仮払金(用途が未確定で先行して支払った代金)の違い
売掛金処理の流れ
売掛金の仕訳例
売掛金のまとめ
監修者プロフィール
田中 卓也(たなか たくや)
税理士、CFP®
中央大学商学部で学んだ後、東京都内の税理士事務所での勤務を経て、田中卓也税理士事務所を開業。記帳代行、税務相談、税務申告をはじめ、事業計画の作成やサポート等の経営相談、キャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・事業継承対策など、経営者や個人事業主のサポートを幅広く行う。そのほか、一生活者目線で、講師や執筆活動、講演活動にも取り組んでいる。
田中卓也税理士事務所(外部サイトに移動します)
売掛金とは、企業間の信用取引において将来的に受け取る権利がある代金
売掛金とは、企業間における商品やサービスの販売により得られる代金のうち、後払いで受け取る代金を指します。売上の対価として受け取る予定の代金を後日請求できる権利のことで、売掛債権の一種です。
企業間の取引においては、都度払いによる手間や手数料の負担を軽減するため、支払い期日を設定したうえで、先に商品やサービスを提供する取引方法である「掛取引」が一般的に用いられています。掛取引は「代金の支払いを確実に期待できる取引先」との信頼関係をもとに成り立つ取引であり、別名「信用取引」とも呼ばれます。
ビジネスシーンにおいて、売掛金がまったく発生しない業種はほとんどないでしょう。特に卸売業や建設業、製造業、サービス業などでは、掛取引が多く発生する傾向にあり、小売店や飲食店、運輸業など即時支払いが一般的な業種では売掛金が発生する機会は少ない、あるいはあっても金額が僅少な傾向があります。
売掛金を帳簿に記載する際には、「売掛金」という勘定科目を使います。売掛金はまだ回収されていない代金を指しますが、将来的には現金・預金に換金できることが期待されるものであるため、貸借対照表の「流動資産」に計上されます。このように売掛金は「資産」として計上されますが、回収できることが前提となっているため、取引先の状況に注意し、売掛金の未回収リスクを管理することが重要です。
売掛金と買掛金(商品やサービスを仕入れる側の未払い代金)との違い
買掛金は、商品やサービスを仕入れる側で発生する未払い代金を指します。売掛金が「債権」として代金を請求できる権利を意味するのに対して、買掛金は「債務」として支払い義務のある金額という点が違いです。
どちらも掛取引によって発生しますが、貸借対照表では売掛金が「流動資産」に、買掛金が「流動負債」に分類されます。
買掛金において注意したいのは、仕入れが先行し、売掛金の回収が遅れて資金不足に陥るケースです。売掛金と買掛金のバランスと回収サイト、支払サイトを適切に管理することが、安定した経営にとって必要不可欠といえるでしょう。
売掛金と未収入金(本業以外で発生した未収代金)の違い
未収入金は、取引が完了しているにもかかわらず回収ができていない代金を指し、売掛金と同様に「流動資産」に分類されます。売掛金が通常の営業活動によるものであるのに対し、未収入金は土地や有価証券など本業以外の取引による代金である点が大きな違いです。
未収入金が多くなると、将来的な資金繰りの悪化や、銀行からの信用力低下につながる可能性があるため、確実に回収することが大切です。
売掛金と前受金(商品の提供前に受け取る手付金)の違い
前受金は、商品やサービスの提供前に受け取る手付金です。売掛金と同様、取引の成立と代金の受け渡しのタイミングが異なりますが、前受金では代金の受け取りが先行している点に違いがあります。
前受金が発生する例としては、商品やサービスの提供前に顧客から代金の一部、あるいは全額を受け取って予約を受け付ける予約販売、代金を受け取ってから製造を開始する受注生産、最初に一定期間分の代金を受け取ってサービスを提供するサブスクリプションサービスなどがあります。住宅や車など、高額商品における頭金や手付金も、前受金とするのが一般的です。
前受金は、受け取った時点で「前受金」という勘定科目に計上し、商品やサービスの提供が完了した時点で「売上高」に振り替えられます。また、前受金は受け取った時点では代金を受けとった義務を履行していないため、貸借対照表上では「流動負債」として計上されます。
売掛金と立替金(従業員や取引先の費用を一時的に立て替えた代金)の違い
立替金は、従業員や取引先が本来負担する費用を、一時的に企業が立て替えた場合の代金です。
後日、実際に支払うべき人から回収する権利がある点は売掛金と同じで、貸借対照表では「流動資産」に分類されます。ただし、立替金は営業活動によるものではなく、立て替えが原因で発生する点が売掛金と異なります。
売掛金と仮払金(用途が未確定で先行して支払った代金)の違い
仮払金は、支払いが先行しているものの、用途が未確定の状態にある代金です。
例えば、従業員の出張時に会社が立て替えた航空券代や宿泊代、備品購入のために概算で先に支払った金額などが該当します。これらの支出は、後から具体的な用途や金額が確定するため、仮払金として処理されるのが一般的です。
貸借対照表では売掛金と同じく「流動資産」に分類されますが、その性質は異なります。売掛金は取引がすでに発生し、後から受け取る代金である一方、仮払金は用途や金額が未確定の状態にある一時的な概算の立て替えのための代金です。
売掛金処理の流れ
売掛金の会計処理は、「売上の計上」「入金確認と消込作業」「残高確認」の3つのステップで行います。各ステップについて説明します。
売上の計上
売掛金が発生した際にまず行うことは、売上の計上です。2018年に税制改正で示された「収益認識に関する会計基準(外部サイトへ移動します)」によって明確化された収益認識の会計基準に従い、原則として契約の履行義務を充足した時点で売上を計上しましょう。契約の履行義務を充足した時点とは、商品やサービスの提供が完了し、顧客が対価を支払う義務を果たした段階で、収益を認識できる時点を指します。
一方、中小企業については「引渡基準」「出荷基準」「検収基準」「契約基準」など、企業会計原則に基づいた会計処理も認められています。
入金確認と消込作業
次に行う作業は、売掛金の入金確認です。発生した売掛金が、取引先から正しい金額で入金されているかを確認します。複数回にわたり入金されるケースや、複数の売掛金が1度に入金されるケースなどさまざまなケースがあるため、該当する売掛金額と入金額が一致しているかを必ず確認しましょう。売掛金額と入金額が一致した場合、債権は消滅しますが、一致しなかった場合は、不足分の売掛金がまだ残ることになります。
このタイミングで必要となるのが、消込(入金消込)です。消込は、債権が消滅または減額したことを記録に残すために、帳簿に記載された売掛金を消去もしくは修正する作業です。消込作業を正確に行うことで、取引先や取引ごとの売掛金の状況が把握でき、未回収となるケースの発生防止にもつながります。入金消込漏れが発生しないように注意が必要です。
残高確認
最後に、計上した売掛金の残高と、取引先が買掛金として認識している残高にずれがないか確認します。売掛金を適切に管理するためには、発生ベースでのチェックに加え、定期的な残高確認の実施が望ましいでしょう。
必要に応じて売掛帳など追加の帳簿を用意し、取引先ごと、担当者ごとの個別の売掛金の発生状況と回収状況、および残高を毎月チェックすることがポイントです。
売掛金の仕訳例
売掛金の仕訳作業が発生するタイミングごとに、仕訳方法を例とともに解説します。
売上計上時の仕訳例
売掛金は将来回収できる会社の資産であるため、売上計上時には借方に「売掛金」として計上します。貸方には収益である「売上」を計上します。必要に応じて取引先や商品やサービスの内容などを摘要欄に記載しておくといいでしょう。
■仕訳例:100万円の商品を後払いで販売した場合
売掛金の回収時の仕訳例
売掛金を回収した場合、回収方法や回収した金額が全額かどうかによって、仕訳方法が変わります。
売掛金を現金で全額回収した場合
売掛金の全額を現金で回収した場合は、「現金」の勘定科目を借方に計上します。売掛金全額が回収できた場合は、同時に売掛金が消滅することになるため、売掛金は貸方に移動します。
■仕訳例:売掛金100万円を現金で全額回収した場合
売掛金を銀行振込で全額回収した場合
銀行振込で売掛金を全額回収した場合は、その金額を借方の「普通預金」に計上し、消滅する「売掛金」は貸方に記載します。
■仕訳例:売掛金100万円を銀行振込で回収した場合
売掛金の一部を現金で回収した場合
売掛金の一部を現金で回収した場合は、回収した金額を現金として借方に記載し、借方には売掛金として記載します。残った売掛金は、今後の回収予定分として引き続き管理が必要なため、摘要欄に取引先名や入金回数などを補足しておきましょう。
■仕訳例:売掛金100万円のうち50万円を現金で回収した場合
この取引先が仮にA社とした場合、「A社に対して100万円の売掛債権があったが、50万円は回収され、残り50万円は未回収である」ということになります。実務においては、このような取引がでてくるため、取引先ごと、あるいは担当者ごとの個別の売掛金の発生状況と回収状況、および残高を毎月チェックすることが重要となります。摘要欄に一部の入金であることを記載しておくと、後日確認する際に便利です。
代金の入金前に商品が返品された場合の仕訳例
入金前に返品が発生、あるいはサービスの提供がなくなった場合は、「売上高」を減少させる処理と「売掛金」を消却させる処理を同時に行います。具体的には、借方にあった売掛金は貸方に移動させ、借方には売上高として、商品の価格を記載します。
■仕訳例:5万円の商品が代金の入金前に返品された場合
この場合、当初100万円の商品の引き渡し、あるいはサービスの提供を約し、その後、5万円分キャンセルされたことになるので、売上が100万円から95万円に減少します。一方で売掛残高も100万円から95万円に減少していることを同時に把握することが重要です。
売掛金の回収が不可能となった場合の仕訳例
何らかの事情により、売掛金の回収ができなくなった際には、「貸倒損失」の勘定科目を使い処理します。回収が不可能となった売掛金の金額を借方には貸倒損失として、貸方には売掛金として計上します。
貸倒引当金が設定されている場合は、「貸倒引当金」の勘定項目を使い、まず処理をする必要があります。貸倒引当金として設定した金額をまず借方に貸倒引当金として計上し、貸倒引当金ではカバーしきれない不足分を貸倒損失として計上しましょう。貸方には全額を売掛金として計上します。
■仕訳例:売掛金30万円の回収が不可能となった場合
■仕訳例:売掛金30万円の回収が不可能となり、貸倒引当金20万円を設定していた場合
(貸倒引当金の設定時に、貸倒引当金繰入という勘定科目を用いて損金計上しているので、貸倒損失と貸倒引当金繰入を合計すると損金計上額は同額となる)
ただし、特に法人が実際に貸倒損失を計上する場合には、法人税法上、以下の細かな要件のいずれかに属する必要があります。そのため、専門家の判断を仰ぎながら処理することをおすすめします。
<貸倒損失の計上時に必要な要件>
・会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられたという事実
・債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合で、担保物を処理したあと
・債務者との取引を停止した時以後1年以上経過した場合で、かつ、売掛債権について担保物がない場合
売掛金のまとめ
・売掛金は、掛取引(信用取引)において、商品およびサービスの代金を顧客から後払いで請求できる権利
・掛取引を帳簿に記録する際には、「売掛金」の勘定科目を用いる
・売掛金は管理を適切に行い、未回収リスクを防ぐことが、健全な経営のために重要
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