2022年4月1日から、インボイスの適格事業者登録の申請がスタートしました。ただ、制度が開始するのは2023年10月1日からということで、まだ具体的な中身を把握していない人もいるのではないでしょうか。
そこで、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀が、インボイス制度について解説します。第一回は、インボイス制度の目的や、事業者に与える影響などについてです。
穂坂光紀氏
インボイス制度の本当の目的をまずは理解する
2023年10月1日より「インボイス制度」が導入されます。インボイスの適格事業者登録の申請は2022年4月1日から始まっているため「インボイス」という言葉自体は浸透しつつありますが、制度の内容や今後の影響について、詳しく把握していない人も多いのではないでしょうか。そこで、今回はインボイス制度が事業者に与える影響について解説していきます。
インボイス制度とは、簡単にいうと「日本国内で事業を行なう場合には事前に国から登録番号をもらって、契約書や請求書、領収書などの取引先にわたす書類に登録番号を記載する」ということです。原則としてすべての事業者が対象となりますが、登録自体は強制ではなく登録したい事業者が国に申請を行なって番号を取得することになります。
最初に知っておきたいのは、「インボイスの登録事業者にならないとどうなるのか?」ということ。結論からいうと「売上の相手先に迷惑をかける」ことになります。自分の会社ではなく、相手の会社が不利益を被るというのがポイントです。相手に迷惑がかかってしまうと今後の取引に支障が出るので、それならインボイスの登録をしたほうがいいということになります。
しかし、ここで別の問題が出てきます。インボイスの事業者登録をするためには「国に対して事業の開業届が提出されており、毎年の確定申告がされている」ことが前提となります。「税金の申告はしていないが、インボイスの事業者登録だけはしたい」といった理屈は通りません。つまり、インボイスの事業者登録をしていない=税金の申告をしていないとも捉えられかねず、大手企業やコンプライアンスを重視する企業との取引ができなくなる可能性が出てきます。インボイス制度の本当の目的は「無申告の違法業者を市場から排除し、課税逃れを防ぐこと」なのです。
副業やお小遣いかせぎとして収入を得ている方のなかには、利益が少ないからと税金の申告をしていない方もいるかもしれません。その場合でも2023年10月1日以降は適切に申告を行わないと取引そのものができなくなる可能性があり、取引先との契約の確認が必要になります。
最も影響が大きいのは「消費税の免税事業者」
そうなると、まじめに申告をしている事業者は全員インボイスの登録をすればいいかというと、そう単純な話でもありません。じつは、もう一つ大きな問題があります。それは「インボイスの登録事業者は、強制的に消費税の課税事業者になる」こと。つまり、消費税の申告をしなければいけなくなるわけです。
日本には消費税の申告義務がある「課税事業者」と消費税の申告義務を免除されている「免税事業者」の二種類の事業者がおり、国税庁の統計では消費税の課税事業者は約300万社、免税事業者は推計で400万~500万社といわれています。事業者の半数以上が消費税の申告を免除されているのが現状です。
消費税の免税事業者の要件は、「基準期間(法人の場合は前々事業年度、個人の場合は2年前)の課税売上が1,000万円未満であること」となっており、年間の売上規模が1,000万円未満の事業者は、ほぼ消費税の申告が免除されているということになります。
消費税の申告義務が免除されているということは、本来であれば国に納めるべき「相手先から受け取った消費税」を国に納める必要がありません。結果として自分の懐に入れている(益税)ということになり、ある意味で恩恵を受けている状態といえます。
それが、インボイスの登録事業者になると免税事業者の要件を満たしていても強制的に課税事業者となり、消費税を国に納めることになります。つまり、今まで受けられた恩恵を手放すことになるわけです。
インボイスの登録事業者にならないと取引先に迷惑がかかり、最悪の場合には取引ができなくなる可能性がある。だからといってインボイスの登録事業者になると消費税の課税事業者になり、消費税の負担が増加する。免税事業者にとっては難しい選択を迫られそうです。
インボイス制度は、自分がどの立場にいるかによって考えなければいけないポイントが異なります。次回以降は、立場ごとに分けて掘り下げて解説していきます。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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